税金の世界で「グロスアップ計算」といえば、給与の計算手法の一種として知られています。給与について所得税などを差し引いた後の手取額を先に決めて、その手取額となるような総支給額を逆算する手法です。
相続税においても、ある種のグロスアップ計算が求められることがあります。例えば、遺産分割協議において相続人から次のような要望がある場合です。
相続税を支払ったあとで、手許にお金が〇〇〇円残るようにしたい
基本的に今自分が住んでいる家の土地さえ取得できれば満足なのだが、併せて納税資金相当の現金も相続で取得したい
これらの要望はいずれも相続税を払ったあとの手取りを先に決めています。こうした要望を満たす遺産分割を実現するためには、相続税でもグロスアップ計算が有用です。
基本的な考え方
ある相続人の手取り金額は、その相続人が遺産分割で取得する財産の金額からその相続人が負担する相続税額を引いた額となります。計算式で表すと次のとおりです。
手取金額 = 取得金額 - 相続税額
ここで相続税額について考えてみますと、その相続人の負担する相続税額は、その相続人が遺産分割で取得する財産の金額に比例して増減します。ここでの比例定数は、相続税の平均税率(※)です。計算式で表すと次のとおりです。
相続税額 = 取得金額 × 平均税率
※相続税の平均税率は、「相続税の総額」を「相続税の課税価格合計額」で割った値です。詳しくはこちらの記事を参照ください。
この相続税額の式を先ほどの手取金額の式に代入します。
手取金額 = 取得金額 - 取得金額 × 平均税率
これを変形すると、次のようになります。
取得金額 = 手取金額 ÷ (1-平均税率)
この算式により、その相続人の要望する手取金額を実現するためにその相続人が遺産分割で取得すべき金額を計算することができます。
計算例
・相続人:長男・二男
・遺産(課税価格合計額):1億円
という事例について、まずは相続税の総額まで計算してみます。
項目 | 全体 | 長男 | 二男 |
課税価格合計額 | 100,000,000 | ||
基礎控除額 | 42,000,000 | ||
課税遺産総額 | 58,000,000 | ||
法定相続分 | 1/2 | 1/2 | |
法定相続分に応ずる取得価額 | 29,000,000 | 29,000,000 | |
税率 | 15% | 15% | |
控除額 | 500,000 | 500,000 | |
相続税の総額の基礎となる税額 | 3,850,000 | 3,850,000 | |
相続税の総額 | 7,700,000 |
課税価格合計額100,000,000円に対して、相続税の総額が7,700,000円ですので、平均税率は7.7%となります。
ここで、遺産分割協議において二男が次のような要望を述べて、長男がそれに納得したとします。
相続税を支払ったあとで、手許に30,000,000円残るようにしたい
以上を踏まえて、二男が遺産分割で取得すべき金額を先ほどの計算式で求めてみます。
取得金額
= 手取金額 ÷ (1-平均税率)
= 30,000,000 ÷ ( 1 - 7.7% )
= 32,502,709
百円未満の端数は切り捨てて、32,502,700円とします。
さて、これで二男の手取りが30,000,000円になっているか確かめてみましょう。
項目 | 全体 | 長男 | 二男 |
各人の取得した遺産の金額 | 100,000,000 | 67,497,300 | 32,502,700 |
按分割合 | 約67.50% | 約32.50% | |
相続税の総額と各人の算出税額 | 7,700,000 | 5,197,292 | 2,502,708 |
各人の納付税額(百円未満切捨) | 5,197,200 | 2,502,700 |
二男は、32,502,700円の遺産を取得して、2,502,700円の相続税を支払いますので、手取りは30,000,000円となっています。
これで二男の要望を汲んだ遺産分割が実現できます。
まとめ
相続税でもグロスアップ計算が有用になる場面がありえます。
平均税率を用いた算式で計算するのが基本的な考え方です。
各種税額控除などがある場合にはもう少し複雑になりますが、基本的な考え方を応用すれば解決できることが多いです。