国税通則法11条による申告期限の延長

その他の税目
Gerd AltmannによるPixabayからの画像

この記事を書いている令和2年5月8日現在においても、新型コロナウイルスは世界中で猛威を振るっています。

そのような中、日本の国税庁から、新型コロナウイルス感染症拡大により各種国税の申告期限の延長が認めらるケースがある旨のアナウンスがありました。

最初4月16日に質疑応答形式の文書(FAQ)による公表があり、その後の4月30日に一部内容が更新されています。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf

この申告期限延長の措置は、(当たり前ですが)国税庁の思い付きで行っているわけではなく、国税通則法11条および国税通則法施行令3条という法令に従って行っています。

公表されたFAQの理解を深めるためには、その背景にある国税通則法11条および国税通則法施行令3条について知っておくことが役にたちます。

条文

まず、国税通則法11条および国税通則法施行令3条のナマの条文を見てみましょう。

国税通則法

第十一条 国税庁長官、国税不服審判所長、国税局長、税務署長又は税関長は、災害その他やむを得ない理由により、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他書類の提出、納付又は徴収に関する期限までにこれらの行為をすることができないと認めるときは、政令で定めるところにより、その理由のやんだ日から二月以内に限り、当該期限を延長することができる。

国税通則法施行令

第三条 国税庁長官は、都道府県の全部又は一部にわたり災害その他やむを得ない理由により、法第十一条(災害等による期限の延長)に規定する期限までに同条に規定する行為をすることができないと認める場合には、地域及び期日を指定して当該期限を延長するものとする。

 国税庁長官は、災害その他やむを得ない理由により、法第十一条に規定する期限までに同条に規定する行為をすべき者(前項の規定の適用がある者を除く。)であつて当該期限までに当該行為のうち特定の税目に係る国税に関する法律又は情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(平成十四年法律第百五十一号)第六条第一項(電子情報処理組織による申請等)の規定により電子情報処理組織を使用して行う申告その他の特定の税目に係る特定の行為をすることができないと認める者(以下この項において「対象者」という。)が多数に上ると認める場合には、対象者の範囲及び期日を指定して当該期限を延長するものとする。

 国税庁長官、国税不服審判所長、国税局長、税務署長又は税関長は、災害その他やむを得ない理由により、法第十一条に規定する期限までに同条に規定する行為をすることができないと認める場合には、前二項の規定の適用がある場合を除き、当該行為をすべき者の申請により、期日を指定して当該期限を延長するものとする。

 前項の申請は、法第十一条に規定する理由がやんだ後相当の期間内に、その理由を記載した書面でしなければならない。

3つの類型、今回のは「個別指定による期限延長」

国税通則法施行令をみると、その第1項から第3項にあるとおり、3つの類型があることが分かります。

地域指定による期限延長

第1項は、災害等の影響を受けた地域を指定して、その地域に限定して延長を認めるパターンです。「地域指定による期限延長」と呼ばれます。

この指定は国税庁告示で納税者に知らされる形式になっています。最初に延長する地域に関する告示がなされ、その後災害等の影響がやんだタイミングで期日に関する告示がなされます。この告示は官報に掲載されるほか、国税庁ホームページで見ることも出来ます。納税者側からの手続は特段何もありません。

平成23年の東日本大震災があった際には、青森県・岩手県・宮城県・福島県・茨城県に「地域指定による期限延長」がありました。

対象者指定による期限延長

第2項は、災害等によりe-tax(電子申告)をすることが出来なくなったしまった人が大勢でてしまった場合においてその対象者を指定して延長を認めるパターンです。「対象者指定による期限延長」と呼ばれます。ちなみに平成29年の税制改正で設けられた新しい規定です。

これも国税庁告示で納税者に知らされる形式であり、納税者側からの手続は特段何もありません。

令和2年3月に法定申告期限を迎える申告所得税・贈与税・(個人事業者の)消費税についてその期限が一律4月16日に延長されました。この延長は「対象者指定による延長」によってなされたものです。令和2年3月6日付で告示がでています。

申告所得税・贈与税・消費税の3税目は、税務署主催の確定申告相談会場で電子申告が可能であり、この会場を訪れて電子申告をする人は毎年大勢います。しかし、今年は新型コロナウイルスの影響により各地の相談会場が開催期間半ばで中止されました。その辺の情勢を考慮して、これら税目の申告対象者に限って期限を延長する「対象者指定による延長」の形がとられた、ということなのかもしれません。

個別指定による期限延長

第3項は、前の2つのように大勢の納税者について一律に決めるやり方とは異なり、個別の納税者の申請により個別に期日を指定して延長します。「個別指定による期限延長」と呼ばれます。略して「個別延長」とも呼ぶようです。

先日の令和2年4月17日に公表された新型コロナウイルスによる各種国税の申告期限延長の話は、この「個別指定による期限延長」のことです。

災害その他やむをえない理由?

「地域指定による延長」および「対象者指定による延長」においては、「災害その他やむを得ない理由」の妥当性の判断は国税庁長官等が行います。個々の納税者がその判断に介入する余地はないです。

他方、「個別指定による延長」においては、まず個々の納税者が「災害その他やむを得ない理由」で申告できなかったと判断したうえでこの申請を行い、次にその申請を受けた税務署長等が「災害その他やむを得ない理由」で申告できなかったと認めれば期限が延長される、という仕組みになっています。
つまり、納税者と税務署長とのあいだで「災害その他やむを得ない理由」の妥当性に関して見解が一致すれば延長されますが、見解の不一致があれば延長がなされない結果になってしまいます。法定申告期限後に申告期限延長の申請をして、その後で見解の不一致が明らかになった時には、不幸にも申告期限切れが確定します。無申告加算税や延滞税の負担、青色申告の承認の取り消し等々のペナルティを被ってしまいかねません。

こうした納税者にとって非常に恐ろしい事態を避けるためには、「災害その他やむを得ない理由」として何が認められるのかを予め知っておくに越したことはありません。

国税通則法基本通達

この点については、従来からある国税通則法基本通達の第11条関係には、次のように書かれています。(太字はこの記事の筆者によるものです)

この条の「災害その他やむを得ない理由」とは、国税に関する法令に基づく申告、申請、請求、届出、その他書類の提出、納付または徴収に関する行為(以下この条関係において「申告等」という。)の不能に直接因果関係を有するおおむね次に掲げる事実をいい、これらの事実に基因して資金不足を生じたため、納付ができない場合は含まない。

(1) 地震、暴風、豪雨、豪雪、津波、落雷、地滑りその他の自然現象の異変による災害

(2) 火災、火薬類の爆発、ガス爆発、交通途絶その他の人為による異常な災害

(3) 申告等をする者の重傷病、申告等に用いる電子情報処理組織(行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律第三条第一項に規定する電子情報処理組織をいう。)で国税庁が運用するものの期限間際の使用不能その他の自己の責めに帰さないやむを得ない事実

FAQ

先般公表されたFAQでは、問2.《期限の個別延長が認められるやむを得ない理由》の応答部において、次のように書かれています。(太字はこの記事の筆者によるものです)

新型コロナウイルス感染症(以下、この問では「感染症」といいます。)に関しては、これまでの災害時のように資産等への損害や帳簿書類等の滅失といった直接的な被害が生じていないものの、感染症の患者が把握された場合には濃厚接触者に対する外出自粛の要請等が行われるなど、自己の責めに帰さない理由により、その期限までに申告・納付等ができない場合も考えられます。

今般の感染症に関しては、これまでの災害時に認められていた理由のほか、例えば、次のような理由により、申告書や決算書類などの国税の申告・納付の手続に必要な書類等の作成が遅れ、その期限までに申告・納付等を行うことが困難な場合には、個別の申請による期限延長(個別延長)が認められることとなります(国税通則法 11 条、国税通則法施行令3条3項、4項)。


〔個人・法人共通〕

① 税務代理等を行う税理士(事務所の職員を含みます。)が感染症に感染したこと

② 納税者や法人の役員、経理責任者などが、現在、外国に滞在しており、ビザが発給されない又はそのおそれがあるなど入出国に制限等があること

③ 次のような事情により、企業や個人事業者、税理士事務所などにおいて通常の業務体制が維持できない状況が生じたこと

➣ 経理担当部署の社員が、感染症に感染した、又は感染症の患者に濃厚接触した事実がある場合など、当該部署を相当の期間、閉鎖しなければならなくなったこと

➣ 学校の臨時休業の影響や、感染拡大防止のため企業が休暇取得の勧奨を行ったことで、経理担当部署の社員の多くが休暇を取得していること

➣ 緊急事態宣言などがあったことを踏まえ、各都道府県内外からの移動を自粛しているため、税理士が関与先を訪問できない状況にあること

〔法人〕

④ 感染症の拡大防止のため多数の株主を招集させないよう定時株主総会の開催時期を遅らせるといった緊急措置を講じたこと(「1 申告・納付等の期限の個別延長関係」問7参照)

〔個人〕

⑤ 納税者や経理担当の(青色)事業専従者が、感染症に感染した、又は感染症の患者に濃厚接触した事実があること

⑥ 次のような事情により、納税者が、保健所・医療機関・自治体等から外出自粛の要請を受けたこと

➣ 感染症の患者に濃厚接触した疑いがある

➣ 発熱の症状があるなど、感染症に感染した疑いがある

➣ 基礎疾患があるなど、感染症に感染すると重症化するおそれがある

➣ 緊急事態宣言などにより、感染拡大防止の取組みが行われている


※ 上記以外にも、個別の申請により申告期限等が延長される場合がありますので、ご不明な点がございましたら所轄の税務署(調査課所管法人については所轄の国税局)へご相談ください。

私見

抽象的なポイントとしては、「自己の責めに帰さない」ことだと考えられます。

具体的な要件に関しては、このFAQに例として挙げられた理由にピタリと一致するものであれば、延長は認められるであろうと予想します。このFAQが事実上の通達として位置づけられるのではないかと思われます。

例として挙がっていない理由でも延長される場合があるので税務署に相談してほしい旨の記載がありますが、これに関しては、少し注意が必要と考えます。
というのは、税務署の担当者に相談してその説明や指示に従ったのだが、後にその指示が誤りであったと判明した場合には、実行した納税者の責任になって救済されないのが普通だからです。国税不服審判所の裁決事例集は、そんな救済されなかった無念の人たちでいっぱいです。

困ったときに相談に応じてくれる方には本当に感謝に堪えないものですが、決断の責任は自分でとるつもりで、相談結果は参考にとどめる姿勢が求められます。

ただしこれは相談をしない方が良いということではなく、むしろどんどん相談すべきです。たくさんの相談事例が積み重ねられて国税庁内部で見解の調整がなされれば新たなFAQが公表される可能性が高まるからです。新たなFAQはより確度の高い実務指針として役に立ちます。