相続税の申告期限について「10か月」というキーワードでざっくり理解するに留まっていませんか?
期限を一日でも徒過してしまうと大惨事になりかねませんので、それが具体的に何月何日になるか、正確に知っておくことはとても大切です。
手順
相続税の申告期限の具体的な日付を知るための基本的な手順は次のとおりです。
まず、期間の起算日の確認です。
期間の起算日は「相続の開始があったことを知った日の翌日」です。
次に、その起算日から十月数えた最後の月の確認です。
指折り数えましょう。
そして、その最後の月に起算日に応当する日があるか確認です。
あるならば、期間の満了日は「その起算日に応当する日の前日」です。
ないならば、期間の満了日は「その月の末日」です。
最後に、その満了日が休日でないか確認です。
休日でなければ、その満了日が期限です。
休日であれば、その休日の翌日(連休なら連休明けの日)が期限です。
以下に詳しく解説します。
相続税法の規定の仕方
相続税の申告期限に関しては、相続税法27条1項において「その相続の開始があったことを知った日の翌日から十月以内」という文言で規定されています。「十月」という期間の概念を念頭に置いた規定になってるのが見て取れます。
期間とは時間的な長さであり、その長さを測り始める「起算日」と測り終わる「満了日」があります。
そして「十月『以内』」とあることから、この十月という期間の満了日を含んでいることが分かります。
したがって、この十月という期間の満了日こそが、相続税の申告期限の具体的な日付を示す決定的な指標になります。
【期間の計算】起算日と満了日の考え方
税金に関する期間の数え方――すなわち起算日と満了日の考え方――は、税法で定められています。
相続税の場合には、国税通則法10条の規定に従うことになります。鍵を握る条文なので、下に全文を載せます。
国税通則法 第10条第1項
国税に関する法律において日、月又は年をもつて定める期間の計算は、次に定めるところによる。
一 期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるとき、又は国税に関する法律に別段の定めがあるときは、この限りでない。
二 期間を定めるのに月又は年をもつてしたときは、暦に従う。
三 前号の場合において、月又は年の始めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、最後の月にその応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
1項の柱書に「国税に関する法律において日、月又は年をもつて定める期間の計算は、次に定めるところによる。」とあります。
相続税の申告期限は「十月以内」という具合に「月をもって定める期間」となっていますので、その期間の計算はこの国税通則法10条に従うことになるわけです。
この10条の規定に照らしながら、相続税申告期限に係る期間の起算日と満了日を見てみましょう。
起算日
起算日については10条1項一号で規定されています。
原則は「期間の初日は算入しない」です。期間の初日の翌日が起算日になります。
例外として「その期間が午前零時から始まるとき」又は「国税に関する法律に別段の定めがあるとき」には、期間の初日が起算日になります。
さて、相続税の申告期限に係る「十月」という期間の起算日は、上記の原則と例外のどちらに当てはまるでしょうか。
相続税法27条1項では、期間の初日について「その相続の開始があったことを知った日の翌日から」という表現になっています。「知った日の翌日から」とわざわざ日付をまたぐニュアンスを醸していることから分かる通り、これは例外の要件である「その期間が午前零時に始まるとき」に当てはまります。
よって、 期間の初日が「その相続の開始があったことを知った日の翌日」であるのと同時に、その期間の起算日も「その相続の開始があったことを知った日の翌日」となります。
満了日
満了日については10条1項二号および三号で規定されています。
具体例で説明します。
具体例 その1
8月20日 相続の開始があったことを知った日
8月21日 相続の開始があったことを知った日の翌日 ←起算日
翌年6月20日 起算日から十月数えた最後の月の応当日の前日 ←満了日
翌年6月21日 起算日から十月数えた最後の月の応当日
例えば、8月20日に相続開始があったことを知ったとします。
この場合、起算日はその翌日の8月21日になります。
国税通則法10条1項二号で「期間を定めるのに月又は年をもつてしたときは、暦に従う」とありますので暦に従って十月を数えることになります。9月で一月目、10月で二月目……翌年5月で九月目、翌年6月で最後の十月目といった具合です。
しかし、この規定だけでは、この例のように月の中途に起算日がある場合には、最後の十月目である6月の応当日付近のどの日をもって満了日にすべきか、人によって判断が分かれてしまう恐れがあります。
そこで、10条1項三号本文にて「前号の場合において、月又は年の始めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。」とルールを定めています。
この例でいくと、
(1)十月の最後の月は翌年6月
(2)その6月において起算日に応当する日は6月21日
(3)その前日は6月20日
というステップを踏み満了日が確定します。
これで翌年6月20日が期間の満了日ということになります。
具体例 その2
4月29日 相続の開始があったことを知った日
4月30日 相続の開始があったことを知った日の翌日 ←起算日
翌年2月28日 起算日から十月数えた最後の月の月末(閏年でない場合) ←満了日
翌年2月30日 起算日から十月数えた最後の月の応当日と言いたいところだが、このような日付は存在しない
例えば、4月29日に相続開始があったことを知ったとします。
この場合、起算日はその翌日の4月30日になります。
10条1項三号本文にて「前号の場合において、月又は年の始めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。」とありますが、この例では最後の月である翌年2月には起算日の応当日である30日が存在しません。無理矢理これを応当日として考えたとしても、その前日である2月29日は4年に一度の閏年を除いては存在しません。このままでは満了日が定まりません。
そこで10条1項三号ただし書きにて「ただし、最後の月にその応当する日がないときは、その月の末日に満了する。」という特別ルールを定めています。
この例でいくと、
(1)十月の最後の月は翌年2月
(2)その2月に起算日に応当する日(30日)がない
(3)その2月の末日
というステップを踏み満了日が確定します。
これで(閏年でなければ)翌年2月28日が期間の満了日ということになります。
【期限の特例】休日の場合
税務署にも休日があります。休日には税務署の受付が閉まっています。期限の日が休日にあたってしまうと、実質的な期限がその休日の前日に繰り上がってしまう恐れがあります。
そこで、国税通則法10条2項で、期限が次の日に当たるときはこれらの日の翌日をその期限とみなすことにしています。
土曜日
日曜日
祝日
年末(12月29日~12月31日)
年始(1月2日~1月3日) (注:1月1日は祝日)
国税通則法 第10条第2項
国税に関する法律に定める申告、申請、請求、届出その他書類の提出、通知、納付又は徴収に関する期限(時をもつて定める期限その他の政令で定める期限を除く。)が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他一般の休日又は政令で定める日に当たるときは、これらの日の翌日をもつてその期限とみなす。