相続税申告書に添付する戸籍謄本の条件「相続開始日から10日を経過した日以後に作成」

相続税

相続税の申告書には、被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍謄本(原本でもコピーでもOK)を添付します。

そして、税法上この戸籍謄本は「相続開始の日から10日を経過した日以後に作成されたもの」であることが求められています。

相続税法施行規則 第16条第3項一号イ

相続の開始の日から十日を経過した日以後に作成された戸籍の謄本で被相続人の全ての相続人を明らかにするもの

「相続開始日から10日を経過した日」は厳密にはいつなのか?

具体例で見てみましょう。

死亡日=相続開始日が、8月20日とします。

期間の起算点

「相続開始日から10日を経過した日」という計算期間の起算点は、「相続開始日」の8月20日ではありません。初日不算入の原則により、起算点はその翌日の8月21日です

相続税における期間計算の取扱いは国税通則法10条に従います。

国税通則法 第10条第1項

国税に関する法律において日、月又は年をもつて定める期間の計算は、次に定めるところによる。

一 期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるとき、又は国税に関する法律に別段の定めがあるときは、この限りではない。

(以下略)

期間の満了点

「相続開始日から10日を経過した日」という計算期間の満了点は、8月31日です。

シンプルに、起算点の21日に10日分を足して31日と考えても結果的にOKなのですが、ここは「経過する日」と「経過した日」という法律用語を吟味しながら考えてみましょう。

「経過する日」は期間の末日を意味し、これに対し「経過した日」は期間の末日の翌日を意味します。「経過する」はまだ日付をまたいでおらず、「経過した」はすでに日付をまたいでいる、といったイメージです。

たとえば、8月21日から「1日を経過する日」といえば8月21日で、「1日を経過した日」といえば8月22日、という具合になります。

したがって、
 2日を経過する日 ⇒ 8月22日
 3日を経過する日 ⇒ 8月23日
 4日を経過する日 ⇒ 8月24日
 (中略)
 10日を経過する日 ⇒ 8月30日
ときて、
 10日を経過した日 ⇒ 8月31日
となります。

以上から、相続開始日が8月20日の場合には、「相続開始日から10日を経過した日」は8月31日になります。相続税申告書に添付する戸籍謄本は「8月31日以後に作成されたもの」であることを税法が求めていることになります。

なぜ「10日を経過した日以後」なのか?

なぜ「相続開始の日から10日を経過した日以後に作成されたもの」という条件があるのか。

それは、死亡の事実が戸籍に反映されるのにある程度の日数を要するから、と説明されることが多いです。

死亡が戸籍に反映されるまでの流れと日数

死亡届の提出

まず、死亡届が市役所・町村役場に提出されます。
死亡の届出は、原則として死亡の事実を知った日から7日以内にしなければなりません。

戸籍法 第86条

死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内(国外で死亡があつたときは、その事実を知つた日から三箇月以内)に、これをしなければならない。

市役所・町村役場での事務処理

次に、市役所・町村役場での事務処理があります。これが完了すれば死亡の事実が戸籍に反映されます。
この事務処理にどれくらいの日数を要するのか、筆者の事務所のある埼玉県の自治体のホームページをいくつか覗いて調べてみました。全ての自治体のホームページにこの事務処理日数が掲載されているわけではなく、むしろ掲載してくれているところは少数派でした。筆者が見つけたのは次の5つです。

〇 春日部市……おおむね3日程度

301 Moved Permanently

〇 志木市……10日程度

死亡したとき(死亡届) - ずっと住み続けたいまち 志木

〇 東松山市……平日中3日程度

301 Moved Permanently

〇 日高市……1週間ほど

ご家族などに不幸があったとき|日高市ホームページ
このたびのご不幸に際し、心よりお悔やみ申し上げます。死亡届を提出すると、埋火葬許可証が発行されます。ご葬儀がお済みになっていれば、死亡届の提出は終了しています。死亡届を提出していない場合は、下記の項目をご覧ください。死亡届を提出する前死亡届を提出するとき死亡届を提出している場合は、「死亡届を提出後の市役所での手続き」を...

〇 和光市……1週間から10日程度

301 Moved Permanently

以上から、事務処理の日数は、一般的に3日ないし10日くらいかかるようです。

「10日を経過した日以後」という条件の是非

上述のような日数を踏まえると、確かに「相続の開始の日から十日を経過した日以後に作成された戸籍謄本」であれば、死亡の事実が反映されている可能性は高そうです。

しかしながら、「10日を経過した日以後」ならば必ず戸籍に死亡が反映されているとは限りません。15日くらいかかることも有り得るからです。
また、「10日を経過した日」より前ならば絶対に戸籍に死亡が反映されていないとまではいえません。5日程度で反映されることも有り得るからです。

このように『10日』という具体的な日数を指定すると、現実に起こり得るイレギュラーとの整合性がとれなくなります。

いっそのこと条文の文言から「相続の開始の日から十日を経過した日以後に作成された」を削除して、シンプルに「被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍の謄本」としてしまったほうが良いのではないかと、個人的には思います。

なお、法定相続情報証明制度では、法定相続情報一覧図の写しの交付を受けるために戸籍謄本等を法務局に提出することになります。その戸籍謄本等については不動産登記規則247条に規定があります。そこでは「相続の開始の日から十日を経過した日以後に作成された」といった経過日数に係る条件は付されていません。これを見ると、やはり相続税に関しても「十日を経過した日以後に作成された」といった条件は不要なのかもしれない、との思いが深まります。

不動産登記規則 247条3項

3 前項の申出書には、次に掲げる書面を添付しなければならない。

一 法定相続情報一覧図(第一項各号に掲げる情報及び作成の年月日を記載し、申出人が記名するとともに、その作成をした申出人又はその代理人が記名したものに限る。)

二 被相続人(代襲相続がある場合には、被代襲者を含む。)の出生時からの戸籍及び除かれた戸籍の謄本又は全部事項証明書

三 被相続人の最後の住所を証する書面

四 第一項第二号の相続人の戸籍の謄本、抄本又は記載事項証明書

(以下略)

……そうは言っても、現に相続税法施行規則で「十日を経過した日以後」とされていますし、国税庁の作製した「相続税の申告のしかた」という手引きでもその旨が明示されています。

相続税申告書に添付する戸籍謄本については出来るだけ「10日を経過した日以後」のものを用意するよう心掛けた方が無難かもしれません。

国税庁「相続税の申告のしかた(令和3年分用)」より