「住民票の写し」は写しであってコピーではない…

相続業務

行政機関での手続など様々な場面で、「住民票の写し」の提出を求められることがあると思います。

まずは市役所の窓口などで「住民票の原本」を入手し、それを自分でコピー機を使ってコピーしたものが「住民票の写し」である、――このように思ってしまいがちです。

しかし、そのようにコピー機でコピーしたものは「住民票の写し」ではないのです。

住民票の「原本」と「写し」

現在の日本において、住民票の原本は各市区町村の住民基本台帳の電子データのことです。そもそも紙ですらありません。

これに対し、住民票の写しは、市役所などでその原本である電子データの内容を専門用紙に印刷して書面にしたもののことです。原本の内容を複製しているという意味で「写し」なわけです。

先述の「自分でコピー機でコピーしたもの」は、厳密にいうと「住民票の写しのコピー」ということになります。

住民票の紙の最後のあたりをよく見てみると

市役所の窓口などで取得する「住民票の写し」を見ると、偽造防止措置がとられた専門用紙であり、かつ、最初にそのタイトルが「住民票」と大きな文字で表示されてますので、「これが住民票の原本なんでしょ」と捉えてしまっても致し方ないようにも思います。

しかし、この書面を隅々までよく見てみると、最後の方に「この写しは、住民票の原本と相違ないことを証明する。」といった一文が記載されており、これが原本の写しである旨がわかる形になっています。

この一文は自治体ごとに若干表現が異なるようです。

例えば、筆者の事務所のあるさいたま市では、「この写しは、住民票の原本と相違ないことを証明します。」と丁寧語になっています。

戸籍の場合

住民票に似ている存在として、戸籍があります。

現在のコンピュータ化された戸籍については、その原本は市区町村で電子データとして管理されており、私たちが市区町村の窓口などで受け取ることが出来るのはその電子データの内容を専門用紙に印刷したものです。ゆえに、書面の最後に「これは、戸籍に記録されている事項の全部を証明した書面である。」といった一文が記載されます。

つまり、こうした運用形態の面では戸籍は住民票と同じです。

しかしながら、その戸籍の内容を紙に印刷した書面の名称については、住民票とは異なり、「写し」という言葉を用いていません。

戸籍全部事項証明書」または「戸籍個人事項証明書」と呼びます。

あるいは、コンピュータ化される前の旧称である「戸籍謄本」「戸籍抄本」と呼んで(しまって)います。元々とても馴染みがあって、しかも短い言葉で使いやすいので、こちらで呼ばれるのはよくわかります。

なお、謄本の「謄」には、原本どうりに書き写すという意味があり、抄本の「抄」には、一部を書き写すという意味があります。よって「謄本」「抄本」には、「写し」という意味が内包されているわけなのですが、それらが「コピー機でコピーする」というイメージまで飛躍して結びつくことは普通の日本人にはないと思われます。

ともあれ、戸籍に関しては、その名称に「写し」という言葉を使わないので、「コピー機でコピーしたものなのかどうか」という類のミスリードは起きずに済んでいるようです。

住民票の名称はどうしたら良かったのか

もしかしたら、住民票に関しても「住民票全部事項証明書」「住民票個人事項証明書」といった名称にしていた方が良かったのかもしれないと個人的には思わなくもないです。

ただそれだと、「住民票記載事項証明書」という名称の書類が実際に存在しているので、これと紛らわしくなるというデメリットがあるような……。いや、「住民票記載事項証明書」が実際にあるのなら「住民票全部事項証明書」「住民票個人事項証明書」があってもいいような……。

「住民票記載事項証明書」とは、「住民票の写し」にある項目のうち申請者が希望した項目だけが記載された書類です。