税理士による戸籍謄本や住民票などの入手

相続業務

戸籍謄本や住民票は、個人情報そのものが記載されています。それゆえに個人情報保護の観点から、これらを取得することが出来るのは、原則としてその当事者である本人もしくはその家族の一部の人だけです。それ以外の第三者が取得しようとしたら、そうした当事者から委任状で委任を受けなければなりません。

しかし、例外的に次の8つの士業は、業務遂行上必要があれば委任状がなくても、その職権により他人の戸籍謄本や住民票などを入手することができます。

①弁護士
②司法書士
③土地家屋調査士
税理士
⑤社会保険労務士
⑥弁理士
⑦海事代理士
⑧行政書士

上記④にあるように、税理士も職権による入手――いわゆる職務上請求――をすることができます

税理士の職務上請求書

税理士が職権により戸籍や住民票を取得するときには、「戸籍謄本・住民票の写し等職務上請求書」という専用の用紙を使用します。

この用紙に適宜記入して税理士証票(税理士資格があることの証明証)と一緒に役所の窓口に提出すれば、あとは普通の流れと同様にして戸籍謄本や住民票を発行してもらえます。

通常の請求書との違い

この「戸籍謄本・住民票の写し等職務上請求書」という用紙は、市役所などで用意されている通常の請求書と同じものではありません。

見た目の違い

通常の請求書の例として、さいたま市の戸籍の請求書は、次の画像のとおりです。

(さいたま市HPより)

税理士の「戸籍謄本・住民票の写し等職務上請求書」は、次の画像のとおりです。

(日本税理士会連合会HPより)

パッと見て様式が違うのは明らかですが、違いはそれだけではありません。

不正使用防止

税理士が使う「戸籍謄本・住民票の写し等職務上請求書」は、不正使用防止の観点から次の特徴があります。

  • 所属している税理士会から1枚あたり税抜50円で購入する必要がある

  • 一か月に購入できる数に上限がある

  • 一枚ごとに固有の管理番号が振られており、税理士会はどの税理士がどの用紙を購入したかを把握している

  • 感圧紙による複写式の控えが残る形式になっており、税理士はその控えを保存しなければならない。

  • 税理士は使用の都度、管理台帳に使用記録を残さなければならない。

税理士が職権で自由気ままに他人のプライバシーをのぞき見できるわけでは決してありません。税理士が職務上請求書で戸籍などを取得できるのは、職務遂行のために必要がある場合に限られます。職務に関係ない理由で戸籍や住民票を取得するのは不正使用にあたります。

不正使用があった場合には、戸籍法または住民基本台帳法における罰則(30万円以下の罰金)に該当するおそれがあることに加え、税理士法における「信用失墜行為の禁止」に違反することで業務停止などの厳しい処分をうけるおそれもあります。

すべての税理士が職務上請求に対応しているわけでもない

対応している税理士は少数派かも

筆者の知る範囲での感覚では、職務上請求書を事務所に備え置いている税理士は少数派のようです。

その理由を推察するに次の3点があるように思います。

  • 税理士業界のメインの顧客は法人であること。
  • 戸籍の読み方を理解するためには相応の勉強をしなければならないこと。
  • 不正使用防止策から生じる煩雑さがあること。

つまり、法人メインの税理士にとっては個人の戸籍や住民票の入手が必要になる機会が比較的少ないとなると、職務上請求のメリットよりもデメリットのほうが上回って感じられる——そういうことなのかもしれないと予想します。

対応している税理士

これも筆者の知る範囲での感覚ですが、積極的に相続税の申告を手掛けている税理士は、職務上請求書を事務所に備え置いている(あるいは、自分の事務所にはなくても、対応なさっている他士業の先生と緊密に提携して間接的に対応できる体制にしている)傾向が高そうです。

相続税の申告においては、相続人を確定させることが重要な課題になります。その証明資料として多量の戸籍謄本の収集が必要となります。

この戸籍の入手に職務上請求が役に立ちます。お客様に入手を依頼することもできますが、そのお客様が平日の日中に市役所に行けないケースもあります。また、兄弟姉妹の戸籍の入手については手続上若干の制約があるため、いっそ第三者の士業が職務上請求で入手したほうが手っ取り早いこともあります。

まとめ

税理士は、「職務上請求」によって戸籍謄本や住民票などを入手できる士業の一つです。

職務上請求には、個人情報保護の観点から厳重な不正使用防止策がとられています。

相続税申告における戸籍謄本の収集などで税理士の職務上請求書が役立つ場面がありますので、職務上請求に対応している税理士もいます。もしも相続税申告をなさる方がご自身で戸籍等を入手するのが難しいと感じることがあれば、職務上請求に対応している税理士にお声がけしていただくと良いかもしれません。