相続税申告を税理士に依頼すると、税理士からお亡くなりになった方の経歴を聞かれることがあります。
出身地、学歴、職歴、病歴、日常生活の様子、さらには趣味や口癖、交友関係まで聞いてくることもあります。
「そんなことを聞いてどうするの?」と不審に思われる方もいるかもしれません。
相続税申告において税理士はなぜ被相続人の経歴を知りたがるのか。
筆者の考える3つの理由を解説します。
正確な申告書にするため
第一の理由は、より正確な申告をしたいためです。
経歴などを予め知っておくことで、相続財産(あるいは債務)の申告漏れを防ぐことが出来る場合があります。
幾つか例を挙げます。
- 大企業に勤めていた方が定年退職から数年後に急逝されたとしたら、その方には老後資金として蓄えていた預貯金が相当額残っているであろうと予想できます。予想に反して預貯金の額が少なければ、他の財産に変化していないか、多額の出費があったのか等を確かめるきっかけになります。
- 都心部から離れた郊外の地域にお住まいの経験のある方の場合には、一般的に郵便局や農協を金融機関としてご利用になっていることが非常に多いため、そうした金融機関に預貯金等の財産が存在する可能性について考慮すべきことが分かります。
- 晩年に長期入院を余儀なくされていた方である場合には、その時期の預貯金等の実質的な管理者が誰であるか等の非常にデリケートな論点に繋がりますので、そこを重点的に検討する必要があることが分かります。
このように経歴を確認しておくことで、気を付けるべき様々な論点の端緒を早期に効率よく掴めるようになります。
「略歴書」を申告書に添付するため
第二の理由は、「略歴書」を作成して申告書に添付したいためです。
相続税の申告書には様々な資料を添付します。添付する資料には、法律で添付しなければならないとされる資料のほかに、任意で添付する資料があります。
任意で添付する資料というのは、その申告書の内容について「何を根拠にしているのか」「どこまで調べたか」などを明らかにしておくために添付するものです。
任意で添付する資料が充実しているほど、税務署に「しっかりとした申告書だ」という好印象を与えることが期待できます。
そこで、税理士は、そうした任意で添付する資料のひとつとして、亡くなった方の経歴などを簡潔にまとめた「略歴書」を作成し、これを申告書に添付することで税務署の心象を良くしようとするわけです。
※すべての税理士がすべての相続税申告に必ず略歴書を添付するわけではありません。あくまで任意の添付資料だからです。略歴書を必ず添付するという税理士から、添付したことがないという税理士まで、人それぞれだと思います。
税務署としても、経歴は相続税申告上の各種論点にかかわる大事な情報であると認識し、これを知りたがっているようです。
それは、税務署から相続税申告対象見込者へ送られてくる「相続税の申告のご案内」の封筒に、略歴書のひな形を同封してくることがあったことからも明らかです。現在名古屋国税局が公表している「相続税申告チェックシート」にも「被相続人の経歴」を書く欄があります。
また、相続税の税務調査があった場合には、調査担当者は、雑談を交えて油断を誘いながら(!?)、亡くなった方の経歴について質問して確認してきます。
このように税務署が知りたがる大事な情報を、自主的に書面にまとめて申告書に添付することで、税務署の心証がよくなることが期待できます。
亡くなった方を偲ぶため
第三の理由は、亡くなった方を偲ぶためです。
相続税申告業務というのは、人の死に直接関係する仕事です。
相続税申告に携わる税理士も感情のある人間ですので、人の死を悼む感性を持ち合わせています。それゆえに本能的に故人を偲ぶ機会を欲しているように思います。
亡くなった方の経歴をご遺族から聴くことで、亡くなった方の人生をご遺族の方々といっしょに振り返ることになり、ご遺族がついつい故人の思い出話に花を咲かせてしまうことがよくあります。こうしたご遺族との会話は、税理士が故人を偲ぶための大切な機会になっています。