相続税申告書の書類を税務署に郵送するときの注意点

相続税

税務署に紙の申告書を提出する場合にその税務署が遠く離れたところにあるときには、その提出方法として、税務署の窓口に持参するのではなく、税務署への郵送を選択することがあると思います。

書類の量が少なければ、安価で安心な郵便局の手紙(定形外郵便物)で送るのが一般的な選択でしょう。例えば、A4サイズのコピー用紙が1枚4グラムくらいで角2サイズ封筒が20グラムくらいだとすると、50枚強程度までなら250円で送れます。

50g以内120円
100g以内140円
150g以内210円
250g以内250円
500g以内390円
1kg以内580円
規格内(長辺34cm以内、短辺25cm以内、厚さ3cm以内、重量1kg以内)の定形外郵便物の料金

ところが、相続税申告では、添付書類が多岐にわたることがあるため、提出する書類の量が多くなりがちです。多量の書類を送るとなると、料金の節約などを考えて、郵便局の手紙(定形外郵便物)ではない別の方法も選択肢に入れたくなります。

しかし、実は税務書類の送り方には色々と制約があります。安易な選択で思わぬ不利益を被ることもありえますので注意が必要です。

税務申告書は「信書」に該当する

「郵便法」という法律があります。

郵便法の第4条第2項で、「信書」とは「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」であるもの、と定義しています。

税金の申告書は、税務署長という特定の受取人に対し、差出人の申告する意思を表示し、その内容たる事実を通知する文書です。よって、申告書はまさしく郵便法の信書に該当します。

信書を送ることが出来る業者は限定されており、さらに、その業者が行うサービスのうち信書を来ることが出来るサービスも限定されています。信書は限定された業者の限定されたサービスで送らなければならないということです。

「信書」を送ることが出来る業者は限定されている

郵便法の第4条第2項で、「信書」を送れるのは日本郵便株式会社のみ、とされています。

郵便法 第4条第2項 前段
会社(契約により会社から郵便の業務の一部の委託を受けた者を含む。)以外の者は、何人も、他人の信書(特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう。以下同じ。)の送達を業としてはならない。

(筆者注:ここの「会社」とは「日本郵便株式会社」のこと。)

また、「民間事業者による信書の送達に関する法律」という法律があります。

この法律により、総務大臣の許可を受けた一般信書便事業者および特定信書便事業者は、先述の郵便法第4条第2項の適用除外として、「信書」を送ることが許されています。

民間事業者による信書の送達に関する法律 第3条
郵便法第四条第二項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 一般信書便事業者が信書便物の送達を行う場合
二 特定信書便事業者が特定信書便役務に係る信書便物の送達を行う場合

一般信書便事業者については、これになるための条件が厳しすぎるために、一般信書便事業者として許可を受けた運送業者は現状ひとつもありません。

特定信書便事業者については、総務省のHPによると、令和2年11月20日時点で555社が特定信書便事業者の許可を受けています。佐川急便のような全国対応の大手から町のバイク便屋さんまで、様々な運送業者が特定信書便事業者になっています。

まとめると、信書を送ることが出来るのは、
日本郵便株式会社(郵便局)
特定信書便事業者になっている運送業者
だけです。

これら以外の業者が信書を送るのは法律に違反することになります。

「信書」を送ることが出来るサービス

日本郵便(郵便局)

日本郵便(郵便局)で信書を送ることができるサービスは次のとおりです。

・手紙(定形郵便物)

・手紙(定形外郵便物)

・レターパック

・スマートレター

このうち、手紙(定形郵便物)は、長辺23.5cm以内・短辺12cm以内・厚さ1cm以内・重量50g以内、という制約があります。これでは小さすぎて、A4サイズ(29.7cm×21cm)の相続税申告書を送るには適しません。

また、スマートレターは、25cm×17cmのA5ファイルサイズの大きさで、厚さ2cm以内、重量1kg以内、という制約があります。これも、A4サイズの相続税申告書を送るには適しません。

よって、信書を送ることができて、相続税申告書を送るのに適しているサービスは次のとおりです。

・手紙(定形外郵便物)

・レターパック

いっぽう、次のサービスはいずれも主に荷物を送るためのサービスであって、信書を送ることは出来ません。うっかり選択してしまわないようにしましょう。

・ゆうパック

・ゆうメール

・ゆうパケット

・クリックポスト

特定信書便事業者

例えば、佐川急便では「飛脚特定信書便」という名称のサービスがあります。西濃運輸では「カンガルー信書便」という名称のサービスがあります。このように業者ごとにそれぞれ異なりますので、信書を送ることができるサービスであるか否かを確認してから利用するとよいでしょう。

また、日本郵便の定形外郵便物とレターパックは重量の上限が4kgまでなのに対し、特定信書便事業者のサービスは重量4kg超に対応しているもの(大型信書便サービス)があります。4kg超を一度に送ろうとするときには、特定信書便事業者のサービスが有力な選択肢になります

郵便・信書便以外の方法で申告書を送ると……

上述のとおり、信書を送ることができる業者とそのサービスは限定されている訳なのですが、信書である申告書をそうした限定された方法以外の方法で税務署に送ってしまったら、申告の効力にどのような影響があるでしょうか。

まず、郵便法違反だとしても、一応税務署に届いた以上、提出があったものとして受け取ってはくれるようです。

ただし、民法97条により、提出日は税務署に到着した日になります。

申告期限ギリギリになってから発送手配をしていると、交通事情等によっては申告期限の日までに税務署に到着せず、期限内申告でなくなるおそれがあります。期限内申告が要件となる税務上の特例が適用できなくなるなどの深刻な事態に発展しかねませんので、大変危険と言わざるをえません。

民法 第97条第1項
意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

郵便・信書便で申告書を送ると……

信書を送ることができる業者のそのサービスで申告書を税務署に送った場合、その提出日は、国税通則法22条により、通信日付印の日(要は消印の日)に提出があったとみなされます。

これであれば、配送中の交通事情等の外部要因で期限後申告になってしまうリスクを避けることができます。

正しい方法で申告書を税務署に送ることは、郵便法順守のためでもありますが、提出日に関して有利な取り扱いを受けるためでもあります。

国税通則法 第22条
納税申告書(当該申告書に添付すべき書類その他当該申告書の提出に関連して提出するものとされている書類を含む。)その他国税庁長官が定める書類が郵便又は信書便により提出された場合には、その郵便物又は信書便物の通信日付印により表示された日(その表示がないとき、又はその表示が明瞭でないときは、その郵便物又は信書便物について通常要する送付日数を基準とした場合にその日に相当するものと認められる日)にその提出がされたものとみなす。

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