相続税の税率を理解するには、税率の一覧表や速算表を見ただけでは十分ではありません。
税率とは税の負担割合を意味するものですが、相続税の本当の負担割合を知るためには相続税の「平均税率」に着目すべきです。
また、相続税の平均税率には相続税の計算構造に由来する幾つかの特徴があります。
具体例で相続税の平均税率を計算
相続税の総額を計算
具体例で考えてみましょう。
遺産:7800万円
相続人:妻、長男、長女の3人
表形式で相続税の総額まで計算すると次のとおりです。
項目 | 全体 | 妻 | 長男 | 長女 |
課税価格合計額 | 78,000,000 | |||
基礎控除額 | 48,000,000 | |||
課税遺産総額 | 30,000,000 | |||
法定相続分 | 1/2 | 1/4 | 1/4 | |
法定相続分に応ずる取得価額 | 15,000,000 | 7,500,000 | 7,500,000 | |
税率 | 15% | 10% | 10% | |
控除額 | 500,000 | 0 | 0 | |
相続税の総額の基礎となる税額 | 1,750,000 | 750,000 | 750,000 | |
相続税の総額 | 3,250,000 |
課税価格合計額7800万円に対して、相続税の総額が325万円という結果になります。
この7800万円にどのような税率が適用されているか分析すると、次の表のとおりです。
合計 | 78,000,000 | 15,000,000 | 7,500,000 | 7,500,000 | 3,250,000 |
税率 | 全体 | 妻 | 長男 | 長女 | 税額 |
0% | 48,000,000 | 0 | |||
10% | 25,000,000 | 10,000,000 | 7,500,000 | 7,500,000 | 2,500,000 |
15% | 5,000,000 | 5,000,000 | 750,000 |
7800万円のうち、4800万円は無税すなわち0%、2500万円は10%、500万円は15%、といった具合に3つの階層に分かれてそれぞれ税率が適用されているわけです。
平均税率を計算
ここでいよいよ本題です。3つの税率の平均値を考えてみましょう。
単純に(0%+10%+15%)÷3とするのはおかしいです。
やはりここは課税価格にウェイトを置いた計算をするのが正しそうです。計算式で表すと次のとおりです。
(48,000,000×0% + 25,000,000×10% + 5,000,000×15%)
÷(48,000,000 + 25,000,000 + 5,000,000)
= 3,250,000 ÷ 78,000,000 = 0.0416666… ≒ 4.17%
長々と説明してしまいましたが、要は78,000,000円に3,250,000円の税金がかかるので割り算して4.17%と簡潔に言い切ることもできますね。
ともあれ、こうして導かれた平均的な割合を「相続税の平均税率」と呼ぶことがあります。税法で定められた用語ではないので必ずそう呼称しなければなければならないというものではありません。あくまで相続税を理解したり分析したりする際に大変有用な数値として学問的あるいは実務的に呼びならわされているものです。
相続税の平均税率の特徴
実質的な税負担率である
相続税の平均税率は、相続税の実質的な税負担率を表現したものと言えます。
したがって、税負担率を直感的に理解する手助けになります。つまり、例えば、平均税率が4.17%であると知った人は、全体の4.17%を納税し95.83%が手元に残るという負担の全体像を容易に把握することができるようになります。
この「実質的な税負担率である」という大きな特徴に着目して、「相続税の平均税率」を「相続税の実効税率」と呼ぶこともあります。
速算表の表面的な適用税率に比べて低くなる
上の例でいうと、相続税の速算表から拾ってくる税率は10%・15%ですが、平均税率4.17%はそこまで高くなりません。
全てに10%あるいは15%がかかるわけではなく、基礎控除部分が0%であることが大きく影響しているためです。 もっとずっと遺産規模が大きくて最高税率55%が用いられるようなケースにおいても、すべてに55%がかかるわけではなく、それよりも低い税率がかかる部分や全く税金のかからない基礎控除の部分があるため、平均税率は55%よりも低くなります。
全体の平均税率と各人の平均税率は一致する
上の例で、遺産分割が次のように決着したとします。
妻46,800,000円(60%)、長男19,500,000(25%)、長女11,700,000(15%)
このとき各人の算出税額は次の表のようになります。
平均税率(④÷①、⑤÷②) | 4.17% | 4.17% | 4.17% | 4.17% |
項目 | 全体 | 妻 | 長男 | 長女 |
①課税価格合計額 | 78,000,000 | |||
②各人の取得した課税価格 | 46,800,000 | 19,500,000 | 11,700,000 | |
③按分割合(②÷①) | 60% | 25% | 15% | |
④相続税の総額 | 3,250,000 | |||
⑤各人の算出税額 | 1,950,000 | 812,500 | 487,500 |
各人の算出税額(⑤)を各人の取得した財産の課税価格(②)で割ると必ず全体の平均税率(④÷①)と同じ値になります。
計算式で考えて、平均税率の算式の分子と分母のそれぞれに按分割合を乗じた形になることからもこれは明らかです。
④/① =(④×③)/(①×③)= ⑤/②
分割案を変更しても、まったく同様の結果が得られます。
この性質は、二次相続を踏まえた一次相続の遺産分割を考えるときなどにとても大事になります。詳しいことは改めて別の記事で触れます。
課税価格合計額が増加すると平均税率は上昇する
追加的に課税価格合計額が増加すると相続税の平均税率は必ず上昇します。
追加部分に適用される税率は、適用される複数の税率のうちの最も高いものになります。上の例でいえば、妻は15%、長男長女は10%がそれです。元の平均税率よりも高い税率で課税される部分が増加しますので、平均税率は必ず上昇します。
なお、逆に課税価格合計額が減少すると平均税率は低下します。高い税率で課税される部分から削減されていきますので、平均税率は必ず低下します。
この性質は、相続税の相続人間の負担関係においていくつかの不整合を引き起こすことがあります。詳しいことは改めて別の記事で触れます。
まとめ
相続税の平均税率は、相続税の総額を課税価格合計額で割り算して求めることができます。
そして、次の特徴があります。
- 実質的な税負担率である
- 速算表の表面的な適用税率よりも低い
- 全体の平均税率と各人の平均税率は一致する
- 課税価格合計額が増えると上昇する、 課税価格合計額が減ると低下する