お亡くなりになった方の預貯金の解約、不動産の相続登記、相続税申告――相続に関する手続は多岐にわたります。
そうした相続に関する諸手続をするたびに、手続の相手方から戸籍の提出を求められます。戸籍は「誰が相続人であるか」を証明するための要となる書類だからです。
このように何度も提出を求められる戸籍ですが、何セット用意しておくのがよいでしょうか?
また、戸籍謄本と戸籍抄本のどちらにすべきでしょうか?
何セット入手する?
結論
結論から言うと、通常は、原本が1セットあればそれで十分です。
戸籍を入手するには発行手数料がかかるので、少なく済むに越したことはないはず。最低限に抑えるべく、1セットのみとするのが筆者のお勧めです。
原本は返してもらえる
法務局:相続登記
不動産の相続登記をする際には法務局に戸籍の原本を提出する必要があります。
しかし、請求すればその原本は返してもらえます。
不動産登記規則 55条1項
書面申請をした申請人は、申請書の添付書面(磁気ディスクを除く。)の原本の還付を請求することができる。
金融機関:残高証明書発行など
預貯金や有価証券の残高証明書の発行を依頼する際や、名義変更をする際などには、基本的に、各金融機関に対して戸籍の原本を提出する必要があります。
しかし、その原本は返してもらえます。
コピーで大丈夫なところ
税務署:相続税申告書の添付書類
相続税申告書に添付する戸籍は、原本でもコピーでもよいとされています。
税務署は原本還付には応じてくれないので、 相続税申告書には戸籍のコピーを添付しましょう。
相続税法施行規則 16条3項
法第二十七条第四項に規定する財務省令で定める書類は、次に掲げる書類(第二十九条第五項の規定により第一号に掲げる書類を提出している場合には、同号に掲げる書類を除く。)とする。
一 次に掲げるいずれかの書類(当該書類を複写機により複写したものを含む。)
イ 相続の開始の日から十日を経過した日以後に作成された戸籍の謄本で被相続人の全ての相続人を明らかにするもの
ロ (以下略)
ひとつずつ手続を進めればよい
戸籍の原本を提出した場合、税務署以外は原本を返してくれます。その税務署には、戸籍のコピーを提出すれば大丈夫です。
つまり、1セットの戸籍でひとつずつ手続を進めればよいのです。
どうしても複数の手続を並行して進めたい事情がある場合には、法定相続情報証明制度を利用しましょう。
謄本・抄本、どちらを入手する?
戸籍には謄本と抄本があります。
戸籍を1セット入手するとして、謄本と抄本のどちらにすべきでしょうか。
相続手続のために入手する戸籍は、大きく分けて「被相続人の出生から死亡までの戸籍」と「相続人の現在の戸籍」があるので、それぞれ説明します。
被相続人の出生から死亡までの戸籍
被相続人の出生から死亡までの戸籍については、謄本でなければなりません。
相続人を特定するためには、被相続人本人の事項だけの抄本では情報が不十分です。その配偶者や親子に関する事項も記載された謄本でなければなりません。
相続人の現在の戸籍
婚姻などで被相続人の戸籍から抜けた人で相続人に該当する方がいる場合には、その相続人の現在の戸籍が別途必要になります。
この相続人の現在の戸籍は謄本にすべきか・抄本でもよいのか。
理論的には抄本でもよさそうである一方で、謄本を求められる現実があります。したがって筆者としては、謄本を入手することをお勧めします。
理論上は抄本でもよいはず
通常、婚姻などで被相続人の戸籍から抜けた人が抜けた後も相続人であることを示すには、理論上は抄本があれば十分です。つまり、その人が現在も生存していることを証明できればよいので、その人だけの事項が載っている抄本でこと足りるからです。
それゆえ、法務局での相続登記や法定相続情報証明制度では、相続人の現在の戸籍は謄本・抄本のどちらでも良いとされています。
謄本の提出が求められる
理論的には抄本で問題ないとしても、現実的には謄本が必要になる手続が存在します。
例えば、相続税申告です。相続税法施行規則16条3項を見ると、「戸籍の謄本」と明記され、抄本でもよしとする旨はどこにも見当たりません。
相続税法施行規則 16条3項一号イ
相続の開始の日から十日を経過した日以後に作成された戸籍の謄本で被相続人の全ての相続人を明らかにするもの
また、全国銀行協会様のHPによると、預金の相続手続に係る必要書類の一般例として、相続人の「戸籍謄本」が必要になる旨の案内が掲載されております。
謄本で揃えるのが無難
謄本は抄本よりも発行手数料がやや高いという嫌いがあるわけなのですが、謄本を入手しておけば間違いないです。
相続手続用の戸籍はすべて謄本で揃えておくのが無難といえそうです。