相続税や贈与税の試算をしてみるときに、大きな課題になってしまうのは土地の評価ではないでしょうか。
土地について正確な相続税評価額を求めるには、非常に多くの論点を考慮しなければいけません。全ての論点をひとつひとつ勉強しながらより正確な相続税評価額を追求するのはとても大切な姿勢ではありますが、大変な労力がかかってしまいます。 あまり手をかけずにそこそこの精度の概算値を求められれば十分であるならば、宅地に関しては固定資産税評価額から推定する方法がおすすめです。
シンプルな算式
次の算式で計算します
$$ {宅地の相続税評価額(推定値)} = {宅地の固定資産税評価額} \times
\frac{0.8}{0.7} $$
宅地の固定資産税評価額は、毎年市区町村から送られてくる固定資産税の課税明細書に記載されています。固定資産税の課税明細書から宅地の固定資産税評価額の金額をひろってきて上の算式にあてはめれば簡単に計算できます。
固定資産税の課税明細書を見るときの注意
- 「固定資産税課税標準」という名称の金額も記載されていますが、これは固定資産税評価額ではありません。
- 固定資産税の課税明細書のなかの用語の使い方は自治体ごとに異なり、固定資産税評価額を単に「価格」と表記しているケースがあります。課税明細書のどこにも固定資産税評価額という表記がなければ、「価格」を探してください。
0.7 と 0.8 は、どこから来たのか?
宅地の固定資産税評価額は、公示価格の7割になるように設定されています。
宅地の評価において、第3節二(一)3(1)及び第3節二(二)4の標準宅地の適正な時価を求める場合には、当分の間、基準年度の初日の属する年の前年の1月1日の地価公示法(昭和44年法律第49号)による地価公示価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格等を活用することとし、これらの価格の7割を目途として評定するものとする。この場合において、不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格等を活用するに当たつては、全国及び都道府県単位の情報交換及び調整を十分に行うものとする。
固定資産評価基準 第1章 土地 第12節 経過措置 より
宅地の相続税評価額は、その算定の基礎となる路線価または評価倍率について、公示価格の8割になるように設定されています。
路線価及び評価倍率は、毎年1月1日を評価時点として、地価公示価格、売買実例価額、不動産鑑定士等による鑑定評価額、精通者意見価格等を基として算定した価格の80%により評価しています。
国税庁HP 関東信越国税局 報道発表資料 令和元年分の路線価等について より
なお、公示価格(あるいは地価公示価格)とは、地価公示法に基づいて、土地取引の価格の目安となるように国が毎年調査・公表している価格のことです。毎年春ごろニュースで「全国最高は東京都中央区銀座の某所で云々」的に話題になるアレです。
さて、以上のポイントを比例式でまとめると、
公示価格:固定資産税評価額:相続税評価額=1:0.7:0.8
となり、ここから上述の算式が導かれます。
宅地に限定
この簡易計算を使えるのは宅地だけです。宅地の固定資産税評価額は公示価格の7割ですが、宅地以外の地目の土地についての固定資産税評価額は公示価格の7割になっていないからです。例えば、雑種地の固定資産税評価額に上記の算式を当てはめて計算しても、その雑種地の相続税評価額の近似値にはならない可能性が極めて大きいです。
固定資産税課税明細書をよく見て、その課税地目が宅地となっていることを確認してください。
ところで、宅地とは?
宅地とは、「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地」です。
相続税評価額と固定資産税評価額の両方とも、土地の地目の区分について、不動産登記の手続きについて定めた「不動産登記事務取扱手続準則」のなかで示された地目の区分をベースにしています。この「不動産登記事務取扱手続準則」で宅地は上述のように定義されています。
まとめ
宅地の概算評価額は今回紹介した算式である程度の精度が期待できます。最初の試算はこれで十分です。さらに正確な試算をしたい場合には、税理士等の専門家に相談してみてください。