梅酒と酒税法の微妙な関係

その他の税目

筆者は梅酒づくりが趣味です。毎年6月に梅酒の仕込みをしています。広口瓶に梅の実と氷砂糖とホワイトリカーをいれて、最低半年は手を付けず押入の奥で保管。頃合いを見ていよいよ最初の一杯を飲む瞬間が一番楽しいです。

昨年仕込んだ梅酒は、無事きれいな琥珀色に仕上がってくれました。味は例年よりやや酸味が強めでした。次の仕込みでは氷砂糖の分量を調整するか、もう少し熟れた実を使うか、まだまだ工夫の余地がありそうです。こういう気長な試行錯誤も楽しみのひとつです。

筆者のほかにも家庭で梅酒づくりを楽しんでいる方は大勢いらっしゃると思いますが、ご家庭での梅酒づくりにも税法の規制が深く関わっており、一歩間違うと犯罪者になりかねない奇妙な状況があります。

酒税法の規制

お酒の規制に関しては酒税法が極めて直接的な影響力をもっています。酒税はお酒を造る人や企業が納める税金ですので、酒税法でお酒の造り方やお酒の分類について事細かく規制しています。

個人が自分で嗜む梅酒についても例外ではなく、酒税法の規制が関わってきます。つまり趣味の梅酒づくりであっても、下手すると酒税法違反になってしまうリスクがあるのです。

免許制

まず、酒税法を理解するうえでの大前提たる重大ルールは、酒類(アルコール1%以上の飲料)を製造してよいのは酒類の製造免許をもっている者だけ、ということです(酒税法7条1項)。無免許酒造はご法度なのです。違反すると10年以下の懲役または百万円以下の罰金です(同54条1項)。

みなし規定

次に理解しなければいけないのは、原則として、酒類に水以外のものを混ぜて出来たものが酒類であるときは新たに酒類を製造したものとみなされる、ということです(同43条1項)。

これを梅酒に当てはめて考えると、酒類であるホワイトリカーなどに梅の実と氷砂糖を漬けて出来上がるのが梅酒という酒類だから、梅酒をつくると酒類を製造したものとみなされてしまいます。酒類を製造したものとみなされたときに製造免許があればいいのですが、普通の人は酒類の製造免許なんぞもっていません。

この原則どおりの適用のままだと、日本中にいる自宅で梅酒を作っている愛好家たちが続々と酒税法違反になってしまいますので、例外規定が設けられています。すなわち、次の要件をすべてみたす場合には、例外的に新たな酒類を製造したものとはみなされないことにしています(酒税法43条11項、酒税法施行令50条14項、酒税法施行規則13条3項)。

  • 消費者が自ら消費するためであること
  • 混ぜる前のベースとなる酒類はアルコール度数20度以上であること
  • 酒類と混ぜる物品は、次に掲げるもの以外のものであること
    • 米、麦、あわ、とうもろこし、こうりやん、きび、ひえ若しくはでん粉又はこれらのこうじ
    • ぶどう(やまぶどうを含む)
  • 混ぜた後で新たにアルコール分が1度以上の発酵がないものであること

販売禁止

また、この例外規定の適用を受けた酒類は販売してはいけないことになっています(酒税法43条12項)。当たり前かもしれませんが、注意しましょう。

個人的に楽しむ分には問題ない……のか?

材料に気を付けて

アルコール度数20度以上の果実酒用ホワイトリカー(焼酎)、梅の実、氷砂糖、この3つの材料で作るオーソドックスな梅酒であれば大丈夫そうですね。なお、アルコール度数20度以上だと酵母菌が生きていけないのでアルコールが生じる発酵は起こらないらしいです。

ところで、みりんや日本酒をベースにした梅酒もあります。
みりんはアルコール15度未満ですので、ご家庭でみりんベースの梅酒をつくると酒税法に違反してしまいます。要注意です。どうしても飲んでみたい人は、きちんと製造免許をもっている酒造メーカーが作ったものが流通していますので、そちらを試してみましょう。
日本酒については20度以上のものと20度未満のものがありますので、ご家庭で日本酒ベースの梅酒を作るときには、そのアルコール度数に十分注意しましょう。

「消費者が自ら消費するため」とは

こうして、酒税法の例外規定の範囲でようやく口にできる自家製梅酒ですが、どうしても気になるのは「消費者が自ら消費するため」という部分です。文字通りに素直に解釈すると、自家製梅酒を飲めるのはその梅酒の仕込みをした人だけ、ということになってしまいそうです。家族や知人に振舞ってはいけないのでしょうか??

この点の解釈については、諸説あるようです。

通達

有力説としては、国税庁の見解です。一般に国税庁の立場からの税法の解釈は通達という文書の形式でまとめられ公表されています。この件に関しては、「『自ら消費するため』には同居の親族が消費するためのものを含むものとし、他人の委託を受けて混和するものは含まないものとする」としています。

同居の親族はOKということで、税法の文言からうけるイメージよりも広めに(甘めに)解釈してくれているようです。裏を返せば、別居親族はNG、盆や正月の親戚の集まりに自家製梅酒を出すのはダメ。当然、知人友人もNGということみたいです。あの条文の書き方からはそこまで広く解釈はできないということでしょうかね。

国会答弁

またこんな話もあります。平成19年の衆議院の国会答弁です。

逢坂誠二議員の質問(質問主意書より抜粋):

六 酒税法第四十三条第十一項に規定する「消費者が自ら消費する」とは、同居の親族が消費することを含むとの解釈があるようだが、これは妥当だと考えるか。また、これ以外の解釈はあるのか。

七 家庭内で年間に数リットル程度を作る果実酒は国民に広く浸透していると思われる上、消費者が自ら消費する以外にも、親類、知り合い同士で、善意の贈答行為が日常的に行われていると推測されるが、酒税法第四十三条第十一項に規定する範囲だけが、みなし醸造の適用除外というのは国民生活の現実とは乖離した規定であると思うが、如何か。

八 仮に、「国民生活の現実と乖離していない」との見解であるなら、家庭でいわゆる「果実酒」を作り、知人などと贈答しあう場合も、醸造免許が必要だと解すべきか。

九 仮に、醸造免許が必要だとした場合に、最低製造数量基準が六キロリットルであり、これは四合瓶換算で八千本をこえる量である。これでは事実上、家庭内で醸造免許を取得していわゆる「果実酒」を作ることは不可能と思われるが如何か。

十 仮に、不可能だとすれば、この酒税法の規定は、国民に広く浸透していると思われるいわゆる「果実酒」を作って、知人同士で楽しむことを禁止するものと解されるが、この最低製造数量基準は、あまりに国民生活の現実と乖離していると思われるが如何か。

安倍晋三内閣総理大臣の答弁(答弁書より抜粋):

二及び六について

 妥当であると考えている。

七から十までについて

 酒税法(昭和二十八年法律第六号)においては、酒類に他の物品を混和することにより、適用される税率が異なる酒類に該当することとなる場合も想定されるため、税負担の公平性や酒税収入の確保の観点から、酒類に他の物品を混和する行為も原則として酒類の製造とみなし、酒類の製造免許を受けなければならないこととしている。

 しかしながら、同法第四十三条第十一項において、「政令で定めるところにより、酒類の消費者が自ら消費するため酒類と他の物品(酒類を除く。)との混和をする場合」には、酒類の製造とはみなさないこととしており、この場合には、酒類の製造免許を受ける必要はない。

 また、同条第十二項において、同条第十一項の適用を受けた酒類は、販売してはならないこととしているが、当該酒類を無償で知人等に提供することは、同条第十二項に規定する販売には当たらず、同項の規定に違反するものではないと考えている

この答弁をもって、「無償で知人等に提供するのはOK」との政府見解がでたとする説があるようです。しかし、無償で知人等に提供することが12項の販売にはあたらない、といっているだけであって、肝心の11項の「消費者が自ら消費する」の範囲については言及をしていないようにも読めます。

結局、本当に「知人等への提供」が「消費者が自ら消費する」に含まれると考えているのであるならば、税法や通達が改正されてしかるべきはずなのに、現在に至るも税法の改正はおろか通達の見直しもされていないところから鑑みるに、「知人等への提供」は「消費者が自ら消費する」の範囲に含まれないというのが政府の見解であり続けているのではないかと推測します。

まとめ

酒類をつくるには免許が必要です。

原則として、酒類に水以外のものを混ぜて出来たものが酒類であるときは新たに酒類を製造したものとみなされます。よって、一般家庭で梅酒のような果実酒を仕込むことも酒類を製造したものとみなされる可能性があります。

しかし、自ら消費するために、アルコール度数20度以上の酒に禁止材料以外の材料を使って、アルコール度数1度以上の発酵がなければ、例外的に新たに酒類を製造したものとはみなされないことにしています。無免許の一般家庭でも梅酒を作って大丈夫そうです。

ただし、「自ら消費するため」の範囲については議論があり、条文の文言からは仕込みをした本人だけのようにも見えますが、国税としては同居親族までは含まれると広めの解釈をしています。別居の親類や知人を含むかについて国会で取り上げられたことがありましたが、具体的な進展は見られないまま現在にいたっているようです。


果実酒を作って知人同士で楽しみたい日本人は現実に大勢いるでしょう。日本人の健全な文化を守るために、酒税法の改正はどこかで行うべきだと筆者は考えます。

ちなみに、筆者の作った梅酒は、身内ですら飲みたがる様子さえも全くなく、まさに文字通り自ら消費しております。