税務署に提出する相続税申告書には遺産分割協議書を添付することが求められます。
この相続税申告書に添付する遺産分割協議書に関してよく寄せられる疑問点についてまとめました。
必ず添付?
一定の特例を適用する場合は必ず添付
全ての相続税申告書に必ず遺産分割協議書を添付しなければいけない、というわけではありません。
添付しなければならないのは、次のような特例を適用する場合だけです。
- 配偶者に対する相続税額の軽減
- 小規模宅地等の特例
- 特定計画山林の課税価格計算の特例
- 納税猶予(農地、山林、特定美術品、個人の事業用財産、非上場株式等、医療法人の持分)
法律上これらの特例を適用する要件のひとつとして遺産分割協議書の添付があるため、相続税申告でこれら特例を適用する場合には必ず遺産分割協議書を添付しなければならないわけです。
他方、これらの特例を使わない相続税申告であれば、遺産分割協議書の添付をしなくてもその相続税申告の結果に直接影響を及ぼすことはありません。
特例適用がない場合でも、「提出をお願いしている書類」なので添付
ただし、国税庁としては、これらの特例を使わない場合であっても遺産分割協議書を添付してくれること望んでいるようです。
国税庁が発行している「相続税の申告のしかた」という冊子の「相続税の申告の際に提出していただく主な書類」のページのなかで、これらの特例を使わない場合における遺産分割協議書について「提出をお願いしている書類」と表現しています。
そういう次第なので、添付することに特段支障がないなら、特例適用がない場合でも遺産分割協議書を添付しておくのがよいと思われます。
様式についての注意点は?
本来、遺産分割協議書には必ずこうしなければならいといった様式はありません。
しかしながら、先述したような相続税の特例適用のために遺産分割協議書を添付しなければならない場合には、その添付する遺産分割協議書の様式について、税法で幾分かの要件が規定されているので注意が必要です。それを箇条書きでまとめると次のとおりです。
- 全員が自署していること
- 全員が実印で押印していること
- その実印の印鑑証明書を併せて添付すること
「自署」に関しては、高齢で手が震えるなどのやむを得ない理由がある方がいる場合に、その方について自署でなく記名押印で代替するという方法を検討することもあろうかと思います。
しかし、遺産分割協議書に自署しないことは、特例適用の要件に抵触するリスクを生じさせます。当人には酷かもしれませんが、どうにか勇気と力を奮い起こして、自署するよう頑張っていただきたいところです。
原本?それともコピー?
遺産分割協議書の写し(つまりコピー)を添付します。
わざわざ税務署提出専用の原本を追加的に用意する必要はありません。
なお、特例適用の場合に併せて添付する必要がある印鑑証明書については、条文解釈の観点からは、原本を添付するのが正しいと考えられます。
筆者の私見ですが……、
他の添付資料である戸籍について原本提出必須だったのがコピーでよくなるという改正が行われた状況にあって、印鑑証明書だけはいまだに原本提出必須というのは、均衡を欠くように思えます。
また、筆者は相続税申告書に添付された印鑑証明書がコピーであったことが税務調査などで問題となったという事例を聞いたことがありません。さらに言えば、戸籍が原本提出必須とされていた頃に戸籍のコピーの添付で済ませてしまっている相続税申告が少なからずあったらしいのですが、それが問題になったという事例も聞いたことがありません。もしかしたら、税務署の現場においては、こうした人的関係の証明書類がコピーでも問題ないとする慣行が事実上出来上がっているのかもしれません。
しかし仮にそうなのだとしても、いざ何かの拍子で争いに発展してしまったときに拠り所になるのは何と言っても「法律でどうなっているか」です。添付する印鑑証明書は原本とするのが無難です。
条文の文言
この記事の論点をより厳密に把握しておきたい方のために、条文の文言を紹介します。
下記の条文は「配偶者に対する相続税額の軽減の特例」に関するものです。「小規模宅地等の特例」などのその他の特例に関しても基本的に同様の書きぶりになっています。
相続税法施行規則 第1条の6 第3項
法第十九条の二第三項に規定する財務省令で定める書類は、次に掲げる書類とする。
一 遺言書の写し、財産の分割の協議に関する書類(当該書類に当該相続に係る全ての共同相続人及び包括受遺者が自署し、自己の印を押しているものに限る。)の写し(当該自己の印に係る印鑑証明書が添付されているものに限る。)その他の財産の取得の状況を証する書類
(以下略)